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■ 練り製品と食塩

 食塩は、塩干品、塩蔵品、塩辛など水産加工品を製造する時によく使われています。その目的は、魚の水分除去、魚肉を絞める、細菌の繁殖を抑制、塩味を付ける、などのためです。特に、練り製品については食塩を添加物として必ず使います。それは、魚肉に含まれているタンパク質を溶かし出すという重要な役目のためです。

学術的になりますが、魚肉には主に3つのタンパク質があります。
塩溶性タンパク質……魚肉の65~75%を占める
水溶性タンパク質……魚肉の20~30%を占める
基質タンパク質……魚肉の3~5%を占める
 この中で蒲鉾(かまぼこ)の弾力にかかわっているのがの塩溶性タンパク質です。食塩がこのタンパク質を溶かし出すと粘りのある肉糊(にくのり)
ができます。この肉糊が絡み合って編み目構造を作り、弾力が出るというわけです。
 このように、水産練り製品は魚肉の塩溶性タンパク質の特性を巧みに利用しています。鮮度が落ちたり、乾燥したりしてこのタンパク質が変性すると、食塩を加えても溶解しなくなり、粘りのある肉糊はできません。


■ 鮮度と水産加工

 水産加工品を作る場合、材料となる魚の鮮度が大切で、新鮮な材料を使えば良い製品ができると言われています。しかし、すべての水産加工食品に当てはまるとは言えません。
 ある島の漁協婦人部にウマヅラハギなどの利用法についての指導に行った際に、島の周辺で捕れた、新鮮なウマヅラハギを材料にして調味乾燥品(みりん干し)を作る指導をした時のことです。ウマヅラハギの頭を除去し、皮を剥ぎ、3枚に下ろし、魚体に砂糖15%、食塩3%を振りかけ、調味し、一晩置いてから翌日乾燥機で乾燥しました。通常であれば、透明で向こう側が見えるほど、光沢のあるみりん干しができます。しかし、ウマヅラハギの鮮度が良すぎたため、砂糖が魚体に染み込まず、不透明で艶のない見かけの悪いものしかできませんでした。
鮮度と水産加工
 このほか、インドネシアで行われている例ですが、生きたままのイワシをそのまま煮熟して乾燥した場合、形や色は良いものができましたが、全くダシが出ない煮干しになりました。また、鮮度の良いエビを乾燥すると、かなり黒っぽく変色してしまい、きれいな赤色の乾燥エビができなかったというケースもあります。このように、「鮮度が良ければ、すべて良し」とはいかないこともあるのです。

■ 昔の人の偉大な技術開発

 原始時代にも水産加工品があったようですが、魚介類の原型を残したものが多く、乾燥など自然条件を利用したごく簡単なものでした。スルメなどの素干し品は今でも作られており、日本でも古い歴史を持つ加工品と言えるでしょう。
 時代とともに水産加工品の種類が増えてきました。そういった中で、魚の姿や形とは全く違う、しかも別の食感(弾力)を作り上げた蒲鉾類は偉大な発明だと言えますが、ほかにも賞賛すべき加工食品は多々あります。その一つがトコロテンです。奈良時代に天草(紅藻類のマクサ、オニクサ、ヒラクサなど)から、寒天質を湯で抽出して冷やし、トコロテンを発明していたのには驚きです。偶然見つけられた可能性はあるにしても、この時代に化学的手法を取り入れ、成分を抽出して利用していたとは素晴らしいことです。今でも、夏の涼しい食べ物として生活にとけ込んでいます。

■ 魚体の死後硬直と魚肉の硬さ

 釣りをする方はこんな経験されたことがあるでしょう。釣ったアジを船の上で刺し身にして食べるとコリコリしておいしかったのに、クーラーに入れて家に持ち帰り、硬くなっているアジを刺し身にすると意外と軟らかくて船の上で食べたものと違っていたと。
 簡単な実験で説明しましょう。まず、生きた養殖ハマチを生けから取り出し、即殺して冷蔵庫(5度)の台上に置きます(魚体の中心部を台の端に置き、尾を垂らす)。すると、時間の経過とともに下に垂れ下がっていた尾が次第に持ち上がり、10時間後には魚体が水平になります。この時、魚体は硬くなっており、この現象を死後硬直と呼びます。
死後硬直
 しかし、この硬そうに見えるハマチを刺身にすると、意外と軟らかい。つまり、硬直中の魚体は硬いので魚肉も硬いものと思いがちですが、実は逆なのです。魚は死後、縮もうとしますが、骨が付いた筋肉では骨と筋肉の縮み率が異なり、筋肉の方がよく縮むため硬く見えるのです。骨を除いたフィレー肉では、この現象は見られません。ただ、死後硬直までの時間は魚種や漁獲法などによって異なります。エソなどの練り製品の材料となる魚は、硬直中であれば鮮度が明らかによいと判断できる目安になります。

■ 水産加工品と水産練り製品の産地

 水産物は大量に生産できますが、生産場所や季節が限られ、腐りやすいという特性があります。例えばニシンなどは北海道の日本海側(江差、高島など)で、毎年決まって4月から5月ごろに大量に漁獲されています。小樽など、ニシン御殿と称する豪邸を建てた地域もあるほどです。
 貨車やトラックによる輸送や沿岸の冷蔵庫が十分に発達していない時代には、腐る前に地元で加工や調理をする必要がありました。そのため、地域ごとに漁獲した魚介類に適した加工法が開発され、今でもさまざまな加工品が残り、名産品となっている地域も多いのです。ただ、その加工品の多くは、素干し、塩干品、塩蔵品などの簡易な加工品で、当時は機械などを使わず、大量に処理ができる加工法が必要であったことが考えられます。
 愛媛県内でも、地域によって漁穫されるものが異なり、さまざまな水産加工品が生産されています。

・川之江地区
イワシが多く捕れ、煮干し加工が盛んです。

・西条地区
海苔の養殖が盛んで、板海苔や味付け海苔が多く生産されています。また、バカ貝が沿岸で多く捕れ、素干し品の姫貝生産は全国的に珍しい産地となっています。

・伊予市上灘地区
昔はイワシがよく捕れ、現在のような削り節産地となる基となりました。

・松前地区
儀助煮(ぎすけに)を主とする小魚珍味のメッカとなっています。

・八幡浜地区
四国最大のトロール基地として、底引きで漁獲される魚を活用した蒲鉾、じゃこ天、魚肉ソーセージの産地となっています。

宇和島地区(御荘町)
サバ、カツオの漁獲が多く、カツオ節などの節類の産地として有名であり、県内削り節業界に供給しています。小トロで鮮度の良いエソ、ホタルジャコなどが捕れ、蒲鉾やじゃこ天の産地を築いています。


■ 上灘漁協女性部のじゃこ天づくり

 夕日のきれいな愛媛県伊予市双海町に、じゃこ天を製造、販売しているユニークなグループがあります。上灘漁協女性部です。このグループのメンバーが、漁師である主人たちが捕ってきた雑魚(ざこ)(エソ、グチなど)を利活用したいので指導してもらいたいと愛媛県工業技術センターを訪れたのが始まりでした。干物などいろいろと検討しましたが、じゃこ天がよいのではないかとの結論に達し、当センターで実技研修を行い、実地に製法を学んでもらいました。技術的に不慣れな状態でしたが、地域の文化祭などの行事にさっそく参加され、手作りのじゃこ天を販売したところ、好評で自信を持ち、現在のようにふたみシーサイド公園内に店舗を構え、実演販売を続けています。
 製法は〈じゃこ天の製造方法と材料〉のコーナーに示したものとほぼ同じですが、大きく異なる点は、宇和島、八幡浜のようにホタルジャコなどが材料に含まれていない点です。この地区の漁業が主にエビ漕ぎと称する小型底引き網漁法なので、エビのほかにエソ、グチなどの魚(この地区としては利用価値が低い魚)が混じります。エソなどの魚は、ホタルジャコに比べ骨が硬く、ミートチョッパーは2段式のものを入れ、2回通すなど工夫して、品質の良いものを作るよう努力しています。宇和島、八幡浜に比べ、味はいいのですがやや硬めです。
 今ではこの公園の名物となり、平均して1日に800枚、週末になると2000~3000枚も売れているそうです。熱々のじゃこ天をかじりながら歩くカップルも多く見られ、2007年には土、日曜、祝日限定販売のハート形じゃこ天も新たに登場しました。「じゃこ天を売ってヨーロッパに行こう」を合い言葉に、漁協女性部の美女軍団は今日も頑張っています。夫婦産業とも言える体制で、地域おこしに成功した例でしょう。そのほか、四国中央市の寒川などの漁協婦人部もその地域で活動されているのは喜ばしいことです。女性のパワーによって、多くの地域で成功されることを期待しています。

■ じゃこ天の販売方法

 現在、じゃこ天はスーパーマーケットやデパートなどで販売されていて手軽に買えます。また、松山空港やJR松山駅の売店などで土産用に買うこともできますし、実演販売もされているので、揚げたてを食べることも可能です。
 昔は主に蒲鉾製造業者の店頭販売、小売店でも売られていました。さらに地方や県外には担ぎ屋さんと呼ばれる人々が蒲鉾屋から種々の製品を仕入れ、売り歩いていました。このため、田舎でも練り製品をいつでも食べることができました。また、祭り、結婚式など祝い事でも簡単に手に入れることができ、重宝されていたようです。
じゃこ天の販売方法
 しかし、昔から魚の鮮度は目玉、表皮の色や艶、エラの色などを見て判定していました。現在のように、これらの部位が取り除かれて切り身や刺し身の状態になると、鮮度の判定は難しくなります。つまり、現在の販売方法は、売り手と買い手の信頼関係の上に成り立っているのです。

■ 魚介類の包装

 近年、さまざまな性能を持ったビニールやプラスチックなどの包装材が開発され、多くの食品が包装されて販売されるようになりました。水産食品も例外でなく、生鮮魚介類も包装され、流通しています。
 昭和50年代以前では、生鮮魚介類は魚屋で対面販売が普通で、目の前で調理し新聞紙などに包んでくれました。最近は、スーパーマーケットやデパートなどでも生鮮魚介類が切り身や刺し身状でトレーに載せられ、透明なフイルムで包装されて売られています。消費者からみると、衛生的で、取り扱いが便利である上に、経済的で、中身も良く見えることなど利点が多く、それによって定着しているようです。
魚介類の包装
 長い歴史を持つじゃこ天ですが、時代を経て販売方法も変わってきています。最近では、インターネットでも愛媛県を含め全国の練り製品が販売されるようになりました。全国どこからでも注文ができ、しかもクール宅急便で、冷蔵、冷凍状態のまま配送されるなど、極めて便利な世の中になっています。
 インターネットでの販売は、売り手と買い手の信頼関係で成り立つ取り引きですので、売り手の品質管理に十分な注意が必要です。

『うまさ満点 じゃこ天BOOK』岡弘康著、愛媛新聞メディアセンター編(愛媛新聞社)より
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