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■ 特性

【形】
 調査した28社のじゃこ天はすべて扁平状でしたが、地域や会社によってその形には違いがみられます。宇和島地方で長方形、八幡浜地方で小判型が多い傾向にあり、中には四国をかたどったユニークなものや一口大の小さなものもあります。大きさは、平均すると幅4.3~8.1センチ×長さ10.3~13.1センチ×厚み0.5~1.1センチで、重量は40~60グラムの範囲ですが、会社によって差が見られます。じゃこ天の厚みは熱の伝わり方を左右するので、弾力形成との関係が深いと思われます。
【色】
 じゃこ天の揚げる前の肉糊(にくのり)は灰色がかっています。揚げると、添加したグルコースやアミノ酸の加熱反応(先に説明したメイラード反応)によって、表面が褐色になるのです。会社によって褐色の濃淡に違いがありますが、その差は添加する糖類(グルコース、キシロースなど)と濃度(0.3~0.5%)、揚げ時間(1~2分)などで微妙に異なります。揚げ油に入れてすぐに表面に薄い膜ができるため、内部の温度は上がりません(100℃以内)。メイラード反応も表面でしか起こらないので、内部は肉糊と同じ灰色のままですが、表面の褐色は食欲をそそる色であり、商品価値を高めていると言えるでしょう。
【弾力】
 じゃこ天に限らず、水産練り製品は弾力が命だと言われています。今回測定した28社の場合、会社によって弾力の強いもの、弱いものなど差が見られました。材料となる魚、製法などが異なるので、弾力形成に差が生じるのは当然なのかもしれませんが、あまり弾力が弱いと品質的に劣ると判断されるようです。
 じゃこ天の弾力は蒲鉾(かまぼこ)と同じように、魚肉の塩溶性タンパク質によるところが大きいのですが、ホタルジャコなどの材料となる魚は蒲鉾と違って水さらしをせず、魚肉の精製を行っていません。しかも、骨、皮も魚肉と一緒に使用しています。このことから、使用している魚は新鮮というだけではなく、もともと弾力の出やすい魚種だと思われます。ただ、このホタルジャコ単独の肉糊を蒲鉾のように山の高さが2センチになるように板付けして蒸すと、弾力が付きにくいことが分かっています。
 じゃこ天がなぜ弾力があるのかには、揚げる時の形状が大きく関係していると考えられます。扁平状(厚み1センチ程度)に薄くしているため、熱が伝わりやすいのです。さらに戻り温度帯(一度できた弾力を壊す温度帯、60~70度)を早く通過させるような製造条件によっても弾力が保たれていると言えるでしょう。
 揚げる以前の問題として、素材であるホタルジャコなどの鮮度が落ちると、たちまちじゃこ天の弾力も低下してしまいます。そのため、弾力の出やすい魚種を混合したり、澱粉(でんぷん)を添加するなど工夫しています。魚種は1種類のみより混合する方が、弾力が増すだけではなく、味が良くなるなどのメリットもあります。また、澱粉の添加には、ソフト感を出したり、「おでん」などに使う時などに味のしみ込みを良くし、硬くなるのを防ぐというメリットもあるのです。
【じゃりつき感】
 じゃこ天は材料となる魚肉に骨、皮が混ざっているので、「じゃりじゃり」した食感があります。これがじゃこ天の特徴と言えますが、会社によって程度の差があります。一般的に八幡浜産はじゃりつき感が強く、宇和島産は弱いようです。その原因は、材料となる魚や砕肉方法の違いにあると思われます。先に述べたように、八幡浜は「直接砕肉法」で、調理した魚を直ちに砕肉しますが、宇和島の場合は「間接砕肉法」で一度魚肉だけを取り、その後で砕肉します。このじゃりつき感については、消費者の年代別で好き、嫌いが分かれるところですが、じゃりつき感は、骨と皮が入っている証拠。強く感じるほどカルシウムが多く含まれているので、健康に良いと言えるでしょう。
【品質】
 水産練り製品は、地方で漁獲される魚が異なるので、おのずと地域性が非常に高くなります。そこで地方特有の基準に従って、官能検査(人間の五官による検査)や機器による検査により、品質を判定することが重要だと思われます。
 じゃこ天を特産品とする愛媛県でも、特にじゃこ天の品質を判定する基準があるわけではありません。練り製品の試験研究では、品質をテクスチュロメーター(*1)などの機器で測定する方法が日常よく用いられています。しかし、先に述べたように材料となる魚が一定しておらず、砕肉方法も異なるので、じゃこ天の場合は機器だけで品質判定するのは極めて難しい面があります。じゃこ天は安全な食品だということは言うまでもありませんが、外観、香り、味、食感(テクスチャー)など、人間の五官(目、鼻、舌、耳、皮膚)に訴える嗜好性が要求されるでしょう。最終的に品質の良し悪しは消費者が食べて判断することです。
 じゃこ天の品質要素には外観、風味、食感などがありますが、まずは食べておいしいことが優先されます。味、食感などを含め、全体的なハーモニーを醸し出す商品が良品と言えるでしょう。
 じゃりつき感については、好きな人と嫌いな人とに意見が分かれますが、じゃこ天の特徴でもあるので、程度差はあるにしても残すべきだと思います。じゃりつき感があることは骨が多く、カルシウムが多いことにつながります。カルシウムは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)やイライラを抑える効果などもあると言われているため、栄養的にも良いうえに、精神的にも癒やされるという効果が期待できます。

(*1)テクスチュロメーター 食品の歯ごたえ、歯切れなど官能的な判断を機械的に読み取り、数値で表すことができる機械。愛媛県工業技術センターで料金を払えば使用できるようになっている。

■ 3つの機能

 人間が食物を摂取するのは、生命維持やエネルギー補給のためであり、食品の持っている必要な栄養素を取り入れています。現在は、世の中にさまざまな食品が出回っており、まさに飽食の時代。数ある食品ですが、その機能(役割)は大きく次の3つだと言えます。

【第1の機能】
 生命維持に必要な栄養素、すなわち、タンパク質、脂肪、炭水化物、ミネラル、ビタミンの5大栄養素を得るためのもの。水産物あるいは水産加工品は古くから動物性タンパク源として摂取されています。
【第2の機能】
 嗜好に合い、人間の感覚に訴えるもの。食べ物である以上、栄養的には問題がなくてもまずいものでは価値が低下します。そのため、おいしく食べられる工夫をしています。
【第3の機能】
 健康維持のために必要なもの。食べることで体の調子を改善したり、予防したり、生体調整に役立つ成分が含まれています。医食同源というように、食品中には健康維持に欠かせない成分が多く含まれていることが種々の研究で明らかになっています。

 先に述べたように、じゃこ天はタンパク質、脂肪、炭水化物(澱粉)などの栄養素のほか、ミネラルであるカルシウム、リンといった、基礎的栄養成分も多く含まれています。
 さらに、最近になってEPA、DHAなどの機能性成分が、蒲鉾類に比べて多く含まれることが分かりました。この結果からも、じゃこ天は食品の3つの機能を果たすことができる健康的食品だと言えるでしょう。

■ 味の秘密

 味の基本は、塩味、甘味、酸味、苦み、うま味のほか、辛味、渋味、えぐ味などがあります。日本人は、特にうま味に敏感な民族のようです。例えば、昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、しいたけのグアニル酸は、日本人が見いだしたうま味成分です(ただし、これら成分はそのままなめても、それほどおいしいものではありません)。
 人の味覚は十人十色というように個人個人で異なるので、じゃこ天の味の良し悪しも一概に決めつけることはできませんが、ほかの揚げ蒲鉾のような甘めの味とは違い、魚本来の自然なうま味が感じられます。
 じゃこ天はホタルジャコなどの魚肉を砕いたもので、何度も説明していますが、水さらしをせず、材料には骨や皮も含んでいます。そのため、蒲鉾類に比べると、魚肉中のイノシン酸、アミノ酸などのうま味成分が流出せずに封じ込められており、じゃこ天ならではの味わいを生んでいると思われます。ちなみに、アジなどの砕肉を2回ほど水さらしすると、うま味成分であるイノシン酸や遊離アミノ酸は流出して10分の1に減少します。
 また、じゃこ天は油で揚げているので、当然揚げ油が味に影響しており、製品の味をマイルドにし、かつ、濃厚なコクを与えているようです。もちろん、新鮮な油であることが重要で、酸化臭などが無いものがいいでしょう。魚肉の呈味(ていみ)成分(味を左右する物質)と添加物(グルコース、グルタミン酸ソーダなど)が混じり合い、複合的に作用して独特の深みのある味になっています。
 このように、じゃこ天は、魚肉、骨、皮を材料に、食塩や揚げ油などの最小限の材料で最上の味を生み出している珍しい魚肉加工品で、まさに“横綱格”だと言えるでしょう。
 小骨は味には直接影響がないようですが、皮は揚げる時の熱によって、その中のコラーゲンがゼラチン質に変化することが考えられ、煮こごりと同じように間接的に味にかかわっているようです。魚肉中のグルタミン酸やイノシン酸と添加されているグルタミン酸ソーダは相乗効果が期待されています。じゃこ天の味は、呈味成分などに負うところが大きいですが、弾力の強いものでその味が生きてきますので、物性にも左右されているようです。
 ところで、じゃこ天は地元では人気がありますが、全国的にはまだ知名度を上げている最中です。その理由として、『漁師直伝!魚の食べ方400種』(農村漁村文化協会、奥本光魚著)の中では、次のように書かれています。

(1) 自家用としていたので売りものと考えなかった。
(2) 見栄えが上品ではない。
(3) 蒲鉾の方が有名。
(4) てんぷらの呼び方が紛らわしい。
(5) 揚げ物なので遠方に送りにくい。

 逆に言うとこれらの欠点を改善していけば、もっと全国的に人気となる可能性を秘めているとも言えます。自然で、素朴な味を全国にアピールし、愛媛県の顔として定着させていきたいものです。

『うまさ満点 じゃこ天BOOK』岡弘康著、愛媛新聞メディアセンター編(愛媛新聞社)より

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