沁(し)みる曲である。何故だか無性に心震わされる歌でもある。
えも言われぬ寂寞(せきばく)感、切なさ、無常観、愛おしさ…。彼女の歌に惹(ひ)き寄せられるワケが知りたくてまた耳を傾ける。そのうち、その歌の魅力にどんどん吸い寄せられ、知らぬ間に深みにハマり、曲にどっぷりと浸りきっている自分に気づく。決して嫌ではない。むしろそれが心地よかったりもする。彼女のデビュー・シングル「群青」にはそんな魅力が漂っていた。
彼女――阿部芙蓉美。その魅力を繙(ひもと)く鍵は、彼女の音楽との関(かか)わり方にある。彼女は音楽を「自分の意志を投影するアイテムにはしたくない」という。「何をやっても人並み以下の自分が唯一心動かされ続けるもの(=音楽)をつきつめたいだけ」と。つまり、伝えたい想いがあるわけでもなく、自らの存在を強く顕示したいわけでもない。したがって、多くの新人アーティストにみられる前のめりな気負いはまったくない。作品は、フラットな、プレーンな、ニュートラルな、素っぴんの自分自身をありのままに映し出す鏡のようなものだという。だからこそ嘘(うそ)がなく無理がない。媚(こ)びもなくあざとさもなく諂(へつら)うこともない。彼女の歌に心地よく心酔できるのは、不純物の一切ない、繊細で瑞々(みずみず)しくも儚(はかな)げな感性が作品を織り成しているからではないか。もちろん、きれいなメロディ、潤いを含んだアコースティック・ギターの音色、そして僅(わず)かに物憂げなクールでブルージーなボーカルの質感に因(よ)る部分もあるのだけれど。
「デビュー曲は19の時に書いた曲だから、照れるくらい初々しく感じますね。“群青”は夜の象徴…かな。確かに“寂しさ”や“悲しさ”を予感させる言葉を使ってはいますけど、そこに焦点をあてているわけじゃない。ただ単に、街があって空があってその下に生活があって、たまたま夜が訪れて主人公がそこにいる、というシチュエーションが形になっただけで。どう感じるかは聴く人次第でいいんじゃないかと」
“夜”は往々にして人を淋(さび)しくさせ、人恋しくさせ、切なくさせ、あるいは少しだけワクワクさせるもの。その時々の気分によって感じ方も違ってくる。だからこそ何度でも耳を傾けたくなるのかも知れない。ストリートでもひときわ評判の良かった楽曲だということも頷(うなず)ける。
「何も意図しないで作った曲たちが、結果的に自分といろんな人たちとを結びつけてくれたり、なに気ない毎日にアクセントや広がりをもたらしてくれるのが嬉(うれ)しい。だから活動の中心にいるのは私自身じゃなく、あくまでも作品なんですよ」
この先も、ジワジワと多くの人たちの心を群青色に染めていくのだと思う。だが、もちろん彼女の魅力はこの曲に限ったものではない。あからさまに共感を呼ぼうとしたり、元気づけようとすることのない…、だけどノスタルジックで切なく人間臭い歌の数々は、各界の著名人たちから高く評価されている。広告界の風雲児・箭内道彦、映像作家・牧鉄馬、中村聖子、作家・石田衣良…etc.
昨春評判を呼んだハウスメイトTV-CMタイアップソングに「開け放つ窓 ~piano version」が起用されたこと、元ジャイアンツ江川卓×元タイガース小林繁の再会で話題となった黄桜のCMで、スキャット楽曲「planetary」が流されたことなどがそのことを証明している。
それら楽曲を含むアルバムのタイトル(「ブルーズ」)も、ブルースが好きとかブルージーなテイストだからというわけではなく、単に大好きな青の複数形として、ということからも、彼女の“脱力”のほどがうかがわれる。
そんな自然体の渋さゆえ、中高年のファンも多いという。ぜひ一度耳を傾けてほしいアーティストなのである。
(Profile)
阿部芙蓉美(あべふゆみ)。1983年、北海道生まれ。2001年、専門学校へ入学のため単身上京。後に作曲家谷本新と出会い数多くのデモテープを制作するかたわら、都内ライブハウス、ストリートにてライブ活動を開始。2005年春、アコースティック主体のスタイルで新宿西口にてストリートライブを開始。6曲入り1000円で販売したCD約1000枚を、11月末のライブまでに売り切る。2007年 3月、5曲入り「ミニアルバム」を3rd Stone Recordsよりリリース。同年 6月20日、フォーライフミュージックよりメジャーデビュー、1stシングル「群青」リリース。11月には2ndシングル「青春と路地」、2008年3月に3rd シングル「開け放つ窓/なみだは乾かない」、同4月30日には初のフルアルバム『ブルーズ』をリリース。物憂気な中にも芯の強さと鮮明な空気感を感じさせる彼女の歌声はどこか懐かしさを感じさせ、年代問わず幅広い支持を集める。
オフィシャルサイト:http://www.abefuyumi.com/