先日、〈注目&新人 アーティスト・クローズアップ〉のコーナーで紹介した佐々木秀実さんのコンサートに行ってきました。会場は東京・渋谷のパルコ劇場。ロビーには、著名人からの飾りきれないほどの祝い花が並べられ、その数の多さが現在の彼(彼女?)の注目度を象徴しているようでした。
オープニングは「誰もいない海」。一般的には、トワ・エ・モワが1970年に歌ってヒットさせたため、フォークソングとしてのイメージが強いようですが、実はその2年前の68年にシャンソン歌手・大木康子がリリースしたシャンソン作品(ちなみに作曲は越路吹雪の夫・内藤法美)であり、日本を代表するオータムソング。メロディーがセンシティブで優しいせいか、初秋の寂しさやノスタルジーが胸にしみます。続いてはシャンソンの代名詞ともいうべき「枯葉」。秋→枯葉→シャンソンという連想ゲームが決して安直ではないことを実証するように、人恋しい秋気分に浸れる佳曲です。
その後もシャンソンのスタンダード、カンツォーネ、小休憩を挟んで彼をメジャーな存在へと引き上げたきっかけの曲「聞かせてよ愛の言葉を」、阿久悠書き下ろしのオリジナル「懺悔」、美輪明宏の「ヨイトマケの唄」、河島英五の「生きてりゃいいさ」、そして彼をシャンソンの世界へと導いた「愛の賛歌」など彩りに富んだ作品で、中高年層がメーンの聴衆を魅了していました。
シャンソンというとどこか高貴なイメージがあるかもしれませんが、庶民目線、大衆感覚の歌が大半で、思った以上に親しみやすいうえ、恋愛関係がもつれた果てのドロドロした内容の曲や悲恋の歌が多くハッピーな作品は少ないにもかかわらず、なんだか満ち足りた気持ちになれるから不思議です。そして、それぞれの歌にリアルなまでの説得力があるのは、表現力や歌心のせいばかりではなく、彼自身が絶望的な苦境を乗り越えてプロのシンガーへと上りつめた経験が歌の表情に表れているからのように感じました。
彼のステージの魅力は、歌はもちろんですが、その軽妙な話術にもあります。ユーモアとウイットに富んだMCは、それを楽しみにしている人も少なくないというほど、オーディエンスの心をしっかりとらえつつ、解きほぐしていきます。トークで楽しませ、歌で感動を届ける、その緩急のバランスに心奪われてしまうのだと思います。
そうした感動の輪はさらに広がりを見せ、注目度は日増しに高まっているようです。来年2月26、27日にはル テアトル銀座でのリサイタル(今度は2日間公演)も決定しました。わずかでも興味を持たれた方は、ぜひ一度、その優雅で和やかな雰囲気に触れてみることをおすすめします。人生の喜怒哀楽を凝縮したかのようなステージは、少なからず心を豊かにしてくれることでしょう。