畑や水田の畦(あぜ)に彼岸花が咲くころからが、無農薬野菜づくりの適期である。それ以前はシンクイガ、コナガ、カブラハバチそしてバッタやコオロギなど昆虫たちがまだまだ元気で、せっかく出た芽を食い尽くしてしまうことが多い。
さて、秋冬野菜の種まきのため種苗会社や近くの園芸店から種子を買うとき、袋の裏を眺めてみると、その種子が生産された場所が表示されている。それが近年、他の地域や外国へどんどん移行しているのにお気付きだろうか? 例えば、飛騨の赤カブは長崎県、宮城白菜は愛知県などはまだいい方で、湘南レッドという赤タマネギや赤丸二十日大根などはイタリアである。中国野菜のチンゲンサイもイタリア、逆にサラダレタスは台湾、黒田五寸ニンジンはなんと南アフリカ産。
一体なぜこんな状況になったのだろうか? それは、品種の交雑を防いで純粋な種子を得る最良の方法が、同じ仲間で同時期に開花するもの同士を近くに置かないということだからと考えられる。日本では狭い地域に多くの同系品種が存在するので、虫や風の媒介による受粉を細心の注意を払って防ぎながら種子を作るには、ネットやハウスなどの資材が必要でコスト高となる。しかし、例えばアメリカでは信州地大根を食用につくることはないから、ただそこに依頼された種子をまいて育て、次の種子を得るだけ経費がかからない。そういうことで種子の生産地は遠くへ遠くへと離れていったのだろう。
だが、いくら食料自給率向上を声高に叫んでも、肝心の種子の生産を海外に委ねてしまっては真の自給とは言えまい。そんなわけで、現在の有機農業の抱える課題の一つに、地域の伝統や文化とも言うべき地方品種を大切に守り種子の自給をするということがある。もちろん自給という言葉の中には、ほかにも石油に依存した農業の体質や神の領域に踏み込む遺伝子組み換えの種子の普及などたくさんの問題が含まれているのだが、それらはまた別の機会に譲ろう。今しばらくは、種子取りの技術を収得し少しずつ種子自給率を上げてゆこうと思っている。