ご指摘がある前に告白しておきますが、「シニア世代の住まいは平屋が快適」と言っておきながらリビング階段や吹き抜けの話をしている矛盾には、しばしの間、目を背けております。ご了承ください。
さて、リビング階段と吹き抜けで空間のつながりや気配への配慮を行うことで、「心地よい距離感を楽しむ」を日常に組み込むと、ゆとりある生活が過ごせるとおもいます。しかし、注意すべき点に温熱環境があります。
ゆとりのある空間の欠点は「冬場に寒い」ことですが、夏のそれも大暑のころにお話しすることではないと思っております。それは十分承知しておりますが、リビング階段では「暖房効率が悪い」ということは避けて通れないものですから、汗をかきながら話を続けさせていただきます。
通常、暖かい空気は上っていき、それに伴い、冷たい空気は下に入り込んできます。リビング階段は縦空間ですので、煙突効果が働きます。いくらリビングで暖房しても、その暖かい空気はリビング階段を通り、2階の空間に逃げ込むことになります。吹き抜けも同様で、天井近くの室温と床面では、5度以上の温度差があったという実験結果もあります。これらの対策に、ポケット引き戸(写真1)とシーリングファン(写真2)があります。
ポケット引き戸とは、壁に中に建具を隠してしまうタイプの引き戸です。引き戸では片側の壁面に建具を寄せる片引き戸が一般的ですが、この建具は冬場の温熱環境を担保するために活用するだけで夏場は使用しないことが多いと思います。建具がその役割を果たすのは1年のうち数カ月なので、普段は隠しておくとスッキリとします。そのためにポケット引き戸をお勧めします。
建具の性能として、光を通し向こう側の様子がうかがえることが必要なので、ツインカーボ(旭硝子:ポリカーボネートを特殊技術で一体成形した、中空構造のシート材)で大きな開口部をデザインし、高さは天井近くまでにするとよいと思います。ガラスだと衝突したときのけがが心配ですし、何より建具が重くなるので開け閉めが大変になります。

【写真1】ポケット引き戸(夏場は通風のために壁の中に収納する。冬場は熱効率を高めるために閉める)
天井近くまでの大きな建具にしておくと、開けているときに開放感がある。また、パブリックな空間なので、光を通すことと向こう側の気配が分かる工夫が必要になる。ガラス建具にすると、開閉が重くなることと衝突したときの事故が心配。特殊ポリカーボネートを使うと軽く割れにくいので、けがをする危険性は少ない
シーリングファンには、サーキュレーション効果(空気を攪拌=かくはん=させる)が期待できます。シーリングファンは扇風機と異なり、ファンが正回転と逆回転しますので、空気を押し出す効果と引き上げる効果があります。これがサーキュレーション効果です。
冬場は、床面に滞留しがちの冷気をシーリングファンで引き上げます。そうすると、吹き抜けの天井近くにたまった暖気が壁を伝ってゆっくりと下りてきます。結果、吹き抜けの高い空間でも、部屋の中での温度差はなくなるのです。これも実験結果があり、差は2度程度になったようです。また、回転数は強・中・弱と3段階のものが多く、状況に応じて使い分けることができます。
シーリングファンは、冬場だけでなく、夏場の温熱環境を担保するために有効なものです。窓の位置とうまく組み合わせる必要もありますので、次回からの「窓の話」と一緒に進めたいと思います。

【写真2】シーリングファン
民家を改修し、リビングに吹き抜けを造る。シーリングファンで室内の空気をゆっくりと攪拌することで、室内の温度差が少なく快適な空間となる